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量子コンピュータ'D-Wave'開発の経緯:「D-Wave」は、本当に量子コンピューターなのか? WIRED Vol.14

http://wired.jp/2015/01/03/dwave-vol14/

WIRED日本語版 Vol.14で、「NASA、Googleが注目する「D-Wave」は、本当に量子コンピューターなのか? 」の翻訳を担当した。

今までいろいろと話題になってきた’D-Wave’だが、その詳細はよくわかっていない(伝わっていない)と思う。実際のところ、'D-Wave'がホンモノの量子コンピュータなのかどうかは、まだよくわからない。従来のコンピュータ(「古典機械」)とは異なるメカニズムが働いていることはほぼ間違いなさそうだが、そのメカニズムを「量子計算」と呼んで良いのかどうかは、専門家でさえまだ判断が分かれている。その事実をわかりやすく伝える、良い記事だと思う。

 

少なくともわかっていることは、’D-Wave’は最適化計算に特化した特殊な機械である、ということだ。「量子アニーリング」と呼ばれる比較的実現しやすい技術を導入した代わりに、汎用性は犠牲になった。D-Waveは、量子ビットをニオブ製の超電導ループで実現し、それらがスピン相互作用(「量子もつれ」)をもつ「3次元イジングモデル」を通じて「計算」を実行する。つまり、D-Waveの「プログラミング」とは、各ループの相互作用を設定することになる。通常のプログラミングとは大きく異り、微分積分といった機能をハードウェアとして埋め込む「アナログ回路」に近いという印象だ。

 

解きたい問題にあわせて各スピンの初期設定を行えば、お互いに「量子もつれ」をもった各量子ビットは、量子アニーリングを通じてある状態に落ち着く。この状態が、求める最適解になる。…と書いたものの、具体的にどうやって「量子プログラミング」、つまりスピンの初期状態を決定しているのか、僕には皆目検討がつかない。

 

今回の記事には、D-Waveが今までたどってきた経緯が、周囲の賛否をふくめて公平に書かれていると思う。筆者の個人的見解は最小限にしながら、記事に書かれたいくつかのエピソードを通じて、D−Waveが、現時点では人々が期待していた「夢の機械」でもないし、単なる「エセ科学」と片付けられるものでもない、ということが伝わっている。(今までの常識を打ち破る革新的な科学技術とは、そういうものなのだろう。「最先端の科学技術は、魔法と見分けがつかない」といったのは、たしか、アーサー・C・クラークだ。)

 

今回のWIREDの記事で僕が感心したのは、そういう白黒つかない最先端の科学技術を、「白」にも「黒」にも偏らず、事実をわかりやすく客観的に伝えていることだ。しかも、記事全体にはストーリー性があり、D-Waveの創業者、ジョーディー・ローズをはじめとする登場人物の個性も(おそらく)的確に表現されている。これらの要素が組み合わさって、本来ならとっつきにくいテーマを、最後まで飽きさせずによませてくれる。さすが米国のサイエンス・ライターだ、と感心した記事だ。

 

  

 

 

薄くて曲がる、まるで紙のようなLED照明:Lightpaper by Rohinni

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瞬く間に普及したLED照明。小さく、軽く、効率のよい照明は、街や職場、家、電子機器などさまざまな場所で使われている。(LEDの「無機的な色」が気に入らない、という人もいるだろうが、他のメリットを考えてそこは大目に見ることにしよう。)しかし人類の欲望はとどまることをしらないようだ。現在のLEDよりも、もっと薄くて軽い照明があれば、もっと世の中が良くなるのに!そう思ってしまうのだ。

 

でもそんな無理な注文をかなえてくれそうな照明が登場した。Rohinniが開発したLightpaperは、その名の通り「光る紙」。薄く、フレキシブルなシートの全面が発光する、夢のような照明デバイスだ。

 


What if light was printable... Introducing LightPaper ...

 

薄膜LEDといえば、以前は有機ELが有望だった。しかし有機ELは製造コスト(歩留まり)や寿命といった問題で、本格的な実用化にはいたっていない。SONYが世界に先駆けて販売した有機ELディスプレイも、残念ながら生産を終了した。

 

Lightpaperは有機ELではなく、一般的なLEDを用いている。赤血球大の微小なLEDをインクと混ぜあわせ、3Dプリンターで導電性のシートに印刷したものだ。(正確には、それをさらに別なシートで挟み込んでシールしている)。現在の課題は、LEDをいかに均一に分布させるか、ということ。分布が偏ると光の濃淡となってあらわれてしまう。しかし、たいていのアプリケーションでは厳密な均一性は求められないため、現状でも十分実用的だ、とメーカーは考えている。

 

Rohinniのターゲットは幅広い。モバイル機器や車、インテリアなど、この新しいデバイスが「風景を変える」可能性がある場所はすべて視野に入っている、とRohinniのCMO、ニック・スムートは言う。「Lightpaperは、『光のプラットフォーム』というようなものです。私たちも、このデバイスがどう使われるのか、まったく想像がつかないんです。少なくとも言えることは、Lightpaperは、これまでの照明の制約をとりはらってくれる、ということです。」

 

Lightpaperが市場に出るのは2015年の中頃の予定。一年後のクリスマスや年末・年始の風景は、今年とはかなり違ったものになるのだろうか。

 

http://i.dailymail.co.uk/i/gif/2014/12/30/a014c1baac5075e0c891ebb7400f497a7572e639.gif

 

 

可視化について思うこと

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このブログを始めてもう7年目。今まで年間100本は投稿してきたが、実はこの半年はあまり書かなかった。忙しくなったというわけでもないし、書きたくなかったというほど嫌になったのでもない。ただ、書くという行為にむかわせるほどのモチベーションがわかなかった、ということだろう。もともと誰に強制されるわけでもなくやっているブログだから、自分の興味がそこにむかなければ書く理由がない。

 

けっこう早くから、データの可視化やインフォグラフィクスについてとりあげてきたという自負はある。当初は、この分野は国内にほとんど情報はなかったし、海外の事例を紹介するサイトも少なかった。でも今や、可視化は当たり前、とは言わないまでも多くの人が知るところとなり、データ・サイエンスやデータ・ジャーナリズムも含めて、社会の新たなトレンドになりつつある(と思う)。

 

僕がデータの可視化に興味をもったその根本には、R.S.ワーマンが約30年前に述べた「情報の理解」ビジネスへの提言がある。ワーマンは、情報をあつかうビジネスには、情報の伝達、情報の保存、そして情報の理解の3種類があると言った。最初の2つーーーーー情報の伝達と保存ーーーーーのビジネスはすでに成熟の域に達している。たとえば大手の通信キャリヤやネットワーク、データセンターといった巨大な企業たちは、現代の重要なインフラになった。しかし、最後の「情報の理解」はまだ未成熟で、大手の企業どころか、方法論さえ確立していない。これからのビジネスのターゲットはここにある、というような主旨をワーマンは著書「情報選択の時代」で述べた。(ちなみにこの本の訳者は、松岡正剛。)

 

ワーマンのこの指摘は、著作から30年経った今でも古びていない。「情報の理解」ビジネスはいまもなお未成熟だ。そして、それを解決する重要なツールのひとつが可視化だ、と僕は思っている。

 

しかし同時に、「情報の理解」にたずさわるには、自分自身の知識や経験が不足していることも感じていた。明確な戦略があったわけではないが、この6年間に行なってきた仕事、たとえば、科学技術振興機構JST)のサイエンスニュースの制作や、WIREDの記事の執筆・翻訳も、大きな意味では「『情報の理解』を理解する」行為だったのかもしれない。そして、このブログは、自分自身の興味や関心を他のどのメディアよりもストレートに表現できるという点で、自分にとってはもっとも重要な「メディア」だったと思う。

 

そして逆に、知識や経験がある程度蓄積されたらこそ、ある種の「行き詰まり」を感じ始めた。ちょっと珍しいデータを美しいデザインで「見える化」できたとしても、「情報の理解」にはほど遠い。それは「面白い」し、ちょっとした話題になるかもしれないが、世の中のほんとうの問題を解決しているのだろうか?社会をより良いものにしているのだろうか?

 

可視化という方向性は間違っていない。けれども、何かが足らない。もしかしたら世の中の方がまだ追いついていないだけなのかもしれないが、もしそうだとしたら、やはり世の中を「より良い」方向に変える必要がある。そのための可視化でなければならない。

 

ではこれから、どうすればよいのだろうか。率直に言って、明確な解決策はまだもっていないが、もしかしたらキーワードになるかもしれないと思うのが、「協働」と「研究」だ。

 

「協働」は、今の言葉で言うとコラボやシェアということ。情報は元来、ある人・ある組織だけにとどまるものではない。情報は本質的に拡散したがっている。それを無理やり押さえ込んでいるのが現代社会のしくみなのだ。だから、可視化はその情報がもともともっているエネルギーを解放するものでなければならない。これが「オープン」の基盤になければならない。

このことを実現するには、情報をあつかう人間自身もまた「オープン」にならなければいけないと思う。一方でものごとを隠しながら、他方でコラボやシェアをうたっても、すぐに嘘だと見ぬかれてしまうだろう。情報をオープンにすることに抵抗があるとすれば、今までのクローズドなシステムにあまりにも慣れすぎたからだけかもしれない。それくらい根本から疑ってもいい。たとえば著作権。それに既得権益とよばれるもののすべて。それらは最終的に行き着くべき、ベストな解なのだろうか? 僕自身もわかい頃はバカにしていた、古い時代の近所づきあいのような関係が、ビジネスの中にあってもいいはずだ。

 

もうひとつの「研究」は少し堅苦しい印象もあるが、平たく言えば「調べて、試行錯誤して、よりよいものを作る」ということだ。なにをやるにしても当たり前の行為だと思うが、このあたり前のことがだんだんおろそかになっているような気がしてならない。自分は手を汚さずに、誰かが苦労して得た成果をほぼそのまま使って小金を儲ける。そんな行為が「良いビジネス」だと信じている人が多くなったのではないか。先に述べた「協働」の前提条件は、自分自身が何か与えられるものを持っていることだと思う。他の人に何かを与えられる、ということがあってはじめて、他の人が自分がもっていないものを与えてくれる。そのためには、各人が自分自身で苦労しながら「研究」をおこなって、与える価値のあるものを自分の手に持たなければならない。

 

「情報の理解」ビジネスの姿はまだ見えないが、これからも追いかけ続けたい。その中で、「協働」と「研究」、この2つのキーワードはよい指針になるかもしれない。そう書きながら、その活動の一環としてこのブログも意味があるかもしれない、という気持ちになってきた。しばらくペースダウンしていたブログだが、もっと素直に、ストレートに、でも今までと変わらず気軽に、もう少し続けてみよう。

 

 

衆院選挙を可視化する:d3.js

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javascriptによる可視化フレームワーク"d3.js"をつかって、衆院選挙結果を可視化してみた。

ベースにしたレイアウトは2年前の衆院選で作成したもの。この時はExcelで作った静止画だったが、今回はd3.jsの機能をつかってインタラクティブ性を加えた。選挙年(前回2012年と今回2014年)と、選挙結果/選挙区割を選択でき、都道府県名の表示・非表示も指定できる。

 

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また、政党名のスケールにマウスオーバーすると、各政党の取得議席分布と小選挙区比例区それぞれの総数を表示する。

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可視化にHTML/CSS+javascriptを使うメリットは、なんといっても幅広いリーチだ。ウェブブラウザさえ使えれば、PCでもモバイル機器でも基本的に同じように表示できる。将来ブラウザやHTML・CSSがアップデートされても、最新の環境で表示できる。

幅広い人々に届ける可視化コンテンツのメイン・ツールとして、HTML/CSS+javascriptをもう少し探求してみたい。

 

ソースコードとデータ一式は、BitBucketに公開した。

エリック・シュミットが語る「グーグルの働き方」〜 'How Google Works' by Eric Schmidt

Googleの元CEO、エリック・シュミットによる、"How Google Works (グーグルの働き方)"は、すべての「新しいことをやろうとしている人」に、示唆と勇気を与えてくれる素晴らしい指針だと思う。内容はもちろん、絵本のようなデザインもすばらしい。これもまた、「スマートクリエイティブ」をひきつけるカルチャーなんだろう。

 

少しでも多くの人に知ってほしいと思ったので、不遜ながら、エリック・シュミットSlideShareに公開しているプレゼン資料を日本語に訳してみた。(でも、「シェア」を尊重するグーグルのカルチャーなので、許してくれると思う。良いアイデアは自ら拡がる力を持っているのだ!)

なお、ニュアンスが伝わっていないところや、意味を正しくつかんでいないところもあるかもしれない。そういう箇所を見つけたら、コメントを「シェア」してくれるとうれしい。

そして、もっと深く理解したい人は、最近発売されたこちらの本を読むのがよいと思う。

 

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グーグルの働き方

【出典:How Google Works

エリック・シュミット&ジョナサン・ローゼンバーグ with アラン・イーグル

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ジョナサンとエリックがグーグルにやってきた時、ビジネスを成功させる方法はすべてわかってる、って思ってた。

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でもすぐに、僕たちがビジネスのやり方について知ってると思っていたことは、ほとんどすべて間違ってることがわかったんだ。

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