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1933年の革命的な路線図

http://www.tfl.gov.uk/corporate/projectsandschemes/communityandeducation/2443.aspx
駅の券売機の上にかかげてある路線図。行きたい駅への経路や路線が、必要な情報にしぼってシンプルに表示されています。路線は水平・垂直と45度のラインで構成され、路線は色で識別されています。駅はほぼ等間隔にならべられ、地理的な感覚を保ちながら、シンプルに表示されています。
今は世界のどこへ行っても同じような路線図を見ることができますが、発祥はロンドンの地下鉄が1933年に採用した路線図なのだそうです。作成者Harry Beck氏は、当時、ロンドンの地下鉄で一時雇いで働いていた電気技師です。Beck氏は、それまでの路線図を大胆に簡略化し、乗客が必要な情報---目的の駅を見つけ、どの路線をどこで乗り換えればよいか---がわかりやすいようなシンプルな表現を考案しました。水平、垂直と45度の線だけで思い切って簡略化されたダイヤグラムは、さながら電気回路のようです。電気技師であったBeck氏ならではのデザインです。
しかし、それまでの地図をベースにした路線図とあまりにも異なるため、地下鉄の経営者はこの「抽象的な」表現が果たして乗客に受け入れられるのか不安だったそうです。そこでモニターを集めてBeck氏の新しい路線図を見せたところ、評判は上々。以来、ロンドン地下鉄の路線図はBeck氏のデザインを踏襲し、この路線図のデザインは世界中の路線図のスタンダードとなったと言うことです。
面白いのは、地理的な情報は極力排除されたBeck氏の路線図の中で、唯一、テムズ川だけは残されたことです。これはロンドンの住人にとって、テムズ川がひとつの基準になっているからなのでしょう。(昔住んでいた京都では鴨川の東か西かが無意識に地理的な基準になっていたことを思い出しました。)地理情報を全て削るのではなく、何が必要で何が不要かを柔軟に判断したことが伺えますね。
Beck氏の路線図デザインは、僕が携わっている情報の可視化やインフォメーション・グラフィクスの根本となる考え方になっており、「革命的な路線図」として今でも手本となっているのです。

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