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目立たないが大切な研究開発を伝えること

http://sc-smn.jst.go.jp/playprg/index/3100

ここ数日、新聞などで地盤のリスクが話題になっている。土砂災害のおそれがある山間部や、崩壊の危険性が高い宅地を「可視化」した地図も公開された。

このニュースを見て一年前に取材したサイエンスニュースを思い出した。シリーズ学協会の提言 地盤工学会だ。

地盤工学会は、東日本大震災後いち早く活動を開始した学会の一つだ。液状化地盤沈下津波堆積物・放射線汚染土壌まで、震災の被害の多くは地盤工学の扱う分野と重なる。その中で、サイエンスニュースでは、東北大学・風間教授らによる、古い盛り土造成宅地の被害の調査状況を伝えた。盛り土とは、谷や斜面に土を盛って作った土地のことだ。

宅地造成の技術基準を定める都市計画法などの法律は、新潟地震をきっかけにして1967年に見直され、宅地造成の要件も厳しくなった。しかし、それ以前に不完全な技術で造成された盛り土宅地も多く残っており、それらは今でも崩壊の危険性が高い。法律改定前後の被害リスクは25倍もあるという。

問題は、一般人にはどこが盛り土かがわからないことだ。例えば、斜面を削って、その土で平地を作った宅地では、見た目には同じ土地でも一部が盛り土になっている。自分の住んでいる土地が盛土かそうでないかは、ほとんどの人が知らない。

当時の取材で、地盤工学会の研究者らは土地情報の開示を強く訴え、活動を推進しようとしていた。今回の新聞のニュースは、その活動の成果だと思う。実際のところ、地盤情報の開示は市民や業者に影響が大きいため、抵抗も大きいと聞く。科学技術面だけでなく、社会的な側面での努力も相当必要だったと推察する。

ビッグ・サイエンスや新規性の高い研究ももちろん大事だが、このような地道な活動をおこなっている研究者・技術者にも、もっと目を向け、その活動や事実を伝えることが必要だ。社会を支えている、目立たないけれど大切な情報を、震災などの大きな問題が起きる前に伝えることが、サイエンスニュースの役割のひとつだと思う。

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