政治家は、原子力発電を停めると経済は大変なことになる、と言う。電力会社は、原発が再稼働しなければ電気料金を値上げするしかない、と言う。でもちょっと待て。アメリカやイギリスは日本より原子力発電の割合が低いし、さらに原子力発電の比率が低い国もたくさんある。そういう国々が必ずしも日本より経済的に困窮しているようにも思えない。原子力発電の割合と経済指標は何か相関があるのだろうか?
そんな素朴な疑問を解決するために、OECDのデータベースを可視化してみた。
まずはGDP。全発電に対する原子力発電の割合を横軸に、縦軸に国民一人あたりのGDPをプロットしてみた。点線はすべてのデータを1次近似した直線だ。
これを見ると、原子力発電の割合が高い国が一人あたりGDPが高いわけではないし、割合が低いとGDPも小さいと言うこともないようだ。すなわちあまり相関が見えない。やや無理はあるが1次近似をしてみると、微妙ではあるが原発割合が高いほうが一人あたりGDPは減る。
次に国民一人あたりのCO2排出量を見てみた。ばらつきがあるものの、全体的に見れば原発割合が高いほうがCO2排出量は少なくなっている。CO2排出量の削減が重要なら、原子力発電推進の意義はあるのだろう。ちなみにアメリカと並んでカナダの一人あたりCO2排出量が高いのが意外。水資源が豊富な国だと思うのだが、有効利用されていないのだろうか。
経済指標としては、複雑なGDPより失業率の方が一般市民には身近でわかりやすいと思う。失業率と原発割合をプロットした結果は興味深い。原発割合が高い国ほど失業率が高い傾向が現れているのだ。これはどう解釈すればよいのだろう?なお、失業率18%のスペインは特殊なデータとして除外している。
最後に軍事費との関係。原発割合と軍事費はもっと相関があると予測していたが、思ったほどなかった。軍事費はアメリカが突出しているが、フランス、イギリスと並んで、韓国の軍事費の多さも目立つ。なお、軍事費はOECDデータベースにはないので、代わりにWorldbankのデータを使った。
今回のデータ・マイニングはそれほど厳密な処置をしたものではないし、もっとデータの中身を見ていく必要があるだろう。しかし、何のフィルタリングもかけずに先入観なしでやってみた結果を、けっして軽く見てはいけないと思う。まずは素直にデータを受け入れて考える、と言う姿勢は必要ではないだろうか。自分の国の未来は、十分納得して判断したい。そのためには、小さな疑念も馬鹿げた疑問も、今は捨てられないのだ。