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サイエンスメディアな日々   インフォグラフィクスな日々

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街で採取したDNAから人の顔を作るアート作品:Stranger Visions by Heather Dewey-Hagborg

http://www.thisiscolossal.com/2013/05/stranger-visions-dna-collected-from-found-objects-synthesized-to-create-3d-printed-portraits/
ギャラリーの壁に並ぶのは、人の顔を型どったマスク。男女、国籍が入り混じった作品には、独特の「リアルさ」が感じられる。その「リアルさ」を支えるのは、作家の技工…ではなく、生命科学の技術なのだ。

ニューヨークで開催された "Stranger Visions"は、「インフォメーション・アーティスト」、ヘザー・デュウェイ=ハグボーグの展覧会だ。彼女は、情報芸術の学士と双方向遠隔通信の修士号を持ち、人間・技術・環境の背後にある前提を見直す視点から作品を作ってきた。今回の展覧会は、CNN、ニューヨーク・タイムズ、ワイヤードUK、ウォール・ストリート・ジャーナル、フジテレビなど、様々なメディアで取り上げられた。なぜ、そんなに注目度が高いのか。その秘密は、マスクが造られたプロセスにある。

ハグボーグの作品の「種」は、公共の場所で採取した煙草の吸殻やチューインガムの食べかす、髪の毛などだ。彼女はこれら遺留物からDNAを抽出し、その一部をPCR(ポリメラーゼ連鎖反応:DNAを選択的に増幅する手法)で増幅し、SNPを調べた。SNP(「一塩基多型」)とは、ゲノム配列の中で個人による差異(多様性)が大きいことがわかっている塩基だ。これらの情報は、DNAを構成する4つの核酸ATCGの配列のテキストデータとして得られる。

この遺伝子情報をオリジナルのコンピュータプログラムによって、人の顔の特長となる形状−性別、血統、眼の色、髪の色、染み、肌の色、鼻の幅や両目の間隔など−の3Dモデルに変換。多少の仕上げを加えて、フルカラーのZcorp製3Dプリンターで「印刷」する。
こうしてできたのが、展示されているマスクだ。なお、DNAから年齢の推定はできないため、全て25歳と仮定してマスクが作られている。
http://www.thisiscolossal.com/2013/05/stranger-visions-dna-collected-from-found-objects-synthesized-to-create-3d-printed-portraits/


DNAから人の顔を再構築することは、理論上は可能かもしれない。しかし、今の技術でどれほど正確な推定ができるのだろうか?

展示されているマスクの基となったDNAは、不特定の人から採取されてたものなので、本人と比較することはできない。しかし、参考として行われた、Kurt Andersen氏Manu Sporny氏の比較実験から、ある程度の評価は下せるかもしれない。写真をもとにした感触では「当たらずとも遠からず」と言うところか。なお、Kurt Andersenはニューヨーク在住の作家、Manu Sporny氏はデジタル・バザールの創立者・社長で、自分のゲノムをGitHubで公開していることで有名な人物だ。
http://www.studio360.org/2013/feb/08/making-portraits-out-of-dna/

今回のハグボーグの試みは「アート」である。しかし、その方法論は生命科学の手法そのものだ。精度が改善・実証されれば、将来、例えば犯罪捜査などに応用される可能性も十分考えられる。

一方で、遺留物のDNAをどこまで第三者が利用してよいのかと言う、科学技術と倫理の間の問題もある。ハグボーグのアート作品は、近未来の科学と社会に僕たちの目を向けさせる。それこそが、彼女がこの作品で意図した目的なのかもしれない。
http://eyebeam.org/people/heather-dewey-hagborg

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