サイエンスメディアな日々   インフォグラフィクスな日々

サイエンスのこと・テクノロジーのこと・ビジュアリゼーションのこと

世界「最小」の映画:"A Boy and his Atom" by IBM Research

http://www-06.ibm.com/innovation/jp/technologies/atom/

少年の前に現れた一つの玉。少年はその玉を手毬のようについたり、壁に打ち付けたり、投げたりする。やがて玉は雲をすり抜けて空に昇り'THINK'と言う文字になる。そして作成者’IBM'のロゴ。

1分半ほどの白黒のコマ撮りアニメは、数十年前の8ミリカメラで作ったコマ撮りアニメーションのように、素朴で他愛もないものだ。しかし、このアニメは、「世界最小の映画」のふれこみのもので、公開から数週間で400万回以上も視聴されている。なぜこんなアニメが人気を集めているのだろうか。

それは、この映画の「登場人物」にある。コマ撮りアニメを構成するひとつひとつの小さな玉、これらは実は原子なのだ。このコマ撮り映画は、ひとつひとつの原子を自由に配置する技術をデモンストレーションのために作られたものだ。偽りのない「世界最小の映画」はギネスブックにも認定された。

現在のハードディスクでは1ビットを記録するのに約100万個の原子が使われている。1ビットあたりの原子数を減らせば、記録密度を高めることができ、同じサイズのハードディスクにより多くの情報を保存できる。IBM基礎研究所はわずか12個の原子で1ビットを記録する技術を開発した。IBMのブレークスルーは、原子の数を減らすというトップダウン型ではなく、いくつの原子があれば記録できるか、というボトムアップの発想にあったのだそうだ。

そして技術者の

地球上のあらゆる物質の基本的な構成要素である原子。この原子を単体で動かすことによって得ることのできる知見と情報は、原子スケール・メモリーの研究において大変重要なものです。
2012年、IBMはわずか12の原子で構成される世界最小の磁気メモリー・ビットの開発を発表。同じデータ量が100分の1のサイズで保存でき、コンピューティングの世界を大きく変えることになると期待されています。IBMの研究員たちは、この技術革新を映画を通して世界に紹介しようと考えました。そして長時間におよぶ精緻な作業を楽しみながら、走査型トンネル顕微鏡を使って映画を制作。主人公は原子で構成された少年です。

記録密度の向上は将来さらに原子一つのレベル、さらに量子のレベルまで高まっていくだろう。ブレークスルーの原動力は、そこにはこのコマ撮り映画のような、技術者の素朴な好奇心なのかもしれない。

この技術の詳細はこちらに日本語でも紹介されている。

copyright(c) 2008-, Atsuhiko Yasuda All Rights Reserved.