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再現:リコンストラクション

先日亡くなった、NHKの元ディレクター吉田直哉さんの特集番組が放送されました。吉田さんはテレビドキュメンタリー番組の草分け的存在でした。私も子供のころに見た、「未来への遺産」や「21世紀は警告する」等の番組には大きな影響を受けています。(当時は吉田さんの名前は知りませんでしたが。)
今日の番組の中で、生前吉田さんが「あなたの番組でやらせはどれくらいあるのか」と聞かれ、「すべてやらせです。」と答えたと言う逸話がありました。これは決して開き直りではなくて、ドキュメンタリーと記録映画とは違う。ドキュメンタリーとは十分な調査で得られた事実をその本質を伝えるために「再現」するものなのだ、と言うアプローチを茶目っ気を加えて述べたものです。
日本では、「ドキュメンタリー=記録」、と捕らえられ、演出が加えられた映像は「やらせ」として批判される傾向があります。しかし、ヨーロッパでは、「ドキュメンタリー=事実の再現(リコンストラクション)」であり、事実に基づいた演出こそドキュメンタリーの真髄なのだ、つまり単なる記録映画ではないところに、ドキュメンタリーの価値があるのだ、と言うことなのだそうです。
そういわれてみれば、ノンフィクションと呼ばれるジャンルの本も、単なる事象の記録ではありません。「」付きの発言文にしたって、おそらくかなりの編集や脚色が加えられているはずで、聞いた通りに書いたとしたら、きっと冗長で面白くないでしょう。風景の描写にしても、そのすべてが目で見たものとは限りません。本質を伝えるのに適切な脚色・誇張はあるはずです。そして、読み手はそれらを暗黙に許容しています。
映像は、よりストレートに表現するツールがあるがゆえに演出が目立ってしまうのですが、本来は伝える者の主観があることに変わりはないはず。むしろそこにドキュメンタリー映像のオリジナリティがあるのだと思います。

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