以前、データサイエンティストについて書いた。Googleのチーフ・エコノミストであるハル・ヴァリアン氏のコメントを引いて、「10年後、もっとも魅力的な仕事」として紹介したものだ。2年前の記事であるが、インターネットでのデータ流通の爆発と、インタラクティブ能力を持つ可視化ツールの充実を見ていた僕にとって、データ・サイエンティストが10年後に重要な仕事になるだろう、と言うヴァリアン氏の予測には説得力があった。
しかしその予想にも間違いがあった。データ・サイエンティストが「もっとも魅力的な仕事」になるには、どうやら10年も必要なかったようだ。データ・サイエンティストは「今、もっとも魅力的な仕事」になりつつある。
AOL Jobsの記事は、データ・サイエンティストを「もっともホットな仕事」と紹介し、「ビジネスで競争力を獲得するために、データ・マイニングやデータ分析が必要になっている。具体的には、データ収集・分析、そして実行可能な情報を作り出すのがデータ・サイエンティストと言う仕事」だと言う。
なぜ、データ・サイエンティストが「ホット」なのか。
インターネットによって、以前は一部の者しか入手できなかった情報を誰もが入手できるようになった。情報の入手能力はもはや競争優位の源泉ではなくなったのだ。代わりに、これからの競争優位性は膨大なデータから目的に沿った有益な情報を取り出す能力に移っていく。その重要な仕事を担うのがデータ・サイエンティストなのだ。
ただし、データ・サイエンティストとは、統計学・数学やプログラミングや可視化だけの専門家ではない。それらはもちろん重要なスキルであるが、それらに加えて、今対象となっている分野の知識も必要とされる。
例えば、医療分野のデータ・サイエンティストは、医療分野の専門用語やトレンドの知識を持っていなければならない。それらがなければ、いくら統計学やプログラミングに長けていても、戦略目的に有効なデータを導き出すことは難しいのだ。(なお、一面的で古い「専門知識」は、データに基づいた新しい発見を邪魔することもある。必要なのは、その分野の本質を捕らえることができるような知識だ。)
この観点から言えば、データ・サイエンティストとは、まったく新しい仕事と言うよりは、各分野の専門家が、統計学・プログラミング・可視化と言ったデータ分析スキルを身につけた姿として、徐々に現れてくるのかもしれない。
いずれにせよ、これからのビジネスは「データ戦争」の色合いを強めていくことは間違いなく、その変化にそった人材育成と技術開発が急がれる。その活動を怠った者は、世界の動きから取り残されてしまうだろう。