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「おたく」はギークか、ナードか?:On “Geek” Versus “Nerd” by Slackpropagation

http://slackprop.wordpress.com/2013/06/03/on-geek-versus-nerd/
このブログの英語名は、"Science Media Geek, Infographics Geek"と言う。別に英語で文章を書いているわけではなく、「にぎやかし」にノリでつけたタイトル名にすぎないが、「…な日々」を直訳せずに、"Geek"と言う言葉を選んだのには訳がある。他では得られない、世間ではまだあまり注目されていないものを自分のこだわりや感性にそって書くブログにしたいと言う思いを「おたく」っぽい雰囲気と重ねて、'Geek"と言う言葉を選んだのだ。

英和辞典で「おたく」を調べると、ギークGeek)とナード(Nerd)、フリーク(freak)やナット(nut)…マニア(...mania)などが挙げられているが、特に最近よく見かけるのは、ギークとナードの2つだ。語感的にも、どちらも「おたく」っぽい響きがある。しかし、この2つ、ニュアンスにどんな違いがあるのだろう?


ブログ"Slackpropagation"の記事、On "Geek" or "Nerd"には、次のように書かれている。

  • ギーク:特定のテーマや分野に熱中している人。コレクション指向で、関係する事実や物を集める。その分野の最新でかっこいい物、流行に敏感。
  • ナード:特定のテーマや分野について、勉強好きで知識のある人。達成指向で、他人に知られていない事実や出来事について、知識やスキルを習得することに力を惜しまない

ギークは次の新製品を求めてWiredを読み、シリコンバレーのうわさ話をチェックする。一方、ナードは、CLRS("Introduction to Algorithm"」アルゴリズムの本)を読み、ダイクストラ法をより効率的に適用する方法を考える。そういう感じだという。ただし、ギークとナードは排他的ではなく、ギークでありナードである人も数多くいる。

ここまでの解説なら今までとそう変わらない。"Slackpropagation"がすごいのは、この「ギーク/ナード仮説」をデータで立証していることだ。なんと「おたく」(この場合は、どちらかと言うとナードだろうか?)な記事なのだろう!

「立証実験」の道具として使われたは、ツイッター。2012年12月6日から2013年1月3日までの約1ヶ月のツイートと全体と、同じ期間に"geek"または"nerd"が使われたツイート、それぞれをツイッターAPIを通じて取得し、PMI(自己相互情報量、Point-wise Mutual Information)によって分析した。PMIとは、文の中で2つの言葉が同時に使われる度合い(共起)を示す尺度で、大きいほど共起の度合いが強いことを示す。
http://en.wikipedia.org/wiki/Pointwise_mutual_information

様々な言葉に対し、"geek"、"nerd"、それぞれとのPMIをプロットしたものが下の図だ。この図では上側にある言葉ほど"geek"と関連が強く、右側ほど"nerd"と関連が強いことを示す。オレンジ色は「よりギークな」言葉で、青色は「よりナードな」言葉だと言える。右上がりの対角線上にある言葉は、ギークとナードの両方に同程度使われている。
http://slackprop.wordpress.com/2013/06/03/on-geek-versus-nerd/

この分析からわかったのは、

  • 収集系はギークgeekは、"collection", "collectables",”boxset"(BOXセット)などと相性が良い
  • アカデミック系はナード:"math","#history","physics","biology","neuroscience"などは、nerdとともに使われる傾向がある
  • 科学技術用語は幅がひろい:"#computers","#bigdata"などは対角線上。これよりギーク側は、"products","startups","brands"やカルト系のテクノロジーの言葉があり、ナード側には方法論系("calculus"解析など)の言葉になる。

と言ったことだ。結論として、ギークは物指向、何かのファンであり、そのため物を集める傾向にある。一方、ナードはアイデア指向。実践家のため、アイデアを好むのだろう、とSlackpropagationの記事は締めくくっている。


Wiredの記事によると、もともとギークは見世物で動物や昆虫を食べる芸人のことで、否定的なニュアンスが強かったそうだ。「変態」「化け物」と言った感覚だろうか。その後コンピュータの世界で使われるようになり、インターネットの普及とともに肯定的な意味に変質していったという。一方、ナードは、ドクター・スースの絵本に登場する怪物の名前に由来しているそうだ。それが面白く無い奴、糞真面目な奴、と言うスラングとして使われるようになった。


今回はギークとナードの差異に注目したが、広い意味ではギークとナードは同類の言葉だ。ともに、あくなき好奇心・探究心、こだわりとオリジナリティ、ある種の完璧主義のようなものを持ち合わせた人を指す。そう考えるとけっしてネガティブな言葉ではなく、これらの資質はむしろ、新しい世界を切り開いていくのに必要不可欠なものではないか、と思う。

ビル・ゲイツはこう言っている。「『おたく』を馬鹿にしてはいけませんよ。だって近い将来、あなたたちは彼らの下で働くことになるかもしれないんですから。」

ギーク」や「ナード」が、「クール(かっこいい)」と同義語になる時代が、もうすぐ来るかもしれない。

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