テレビや新聞、ネット上で、中国の大気汚染の報道が続いている。中国に行ったことがない僕は、当初、少し大げさな報道をしているのではないか、と疑っていた。政治的な軋轢が高まっている時期であり、心理的な操作もあるのかもしれない、という警戒心が働いていたのだ。しかし一方で、実際に中国に行った、あるいは住んでいる知人の話を聞く限り、現在の報道はけっして「大げさな表現」でもなさそうだ。真実はわからないが、今、僕たち一般市民が行えることは、できる限り客観的なデータを取得し、監視する努力を行うことだと思う。
大気汚染データを公開するサイトの中で、もっとも広範で詳細なもののひとつに、aqicn.orgがある。aqicn.orgは、各国の主に公的機関が公開しているデータを集め、全世界の都市の大気汚染を評価・可視化しているサイトだ。
aqicn.orgは、各都市のAQI=Air Quality Index:大気品質指数を、数字と色でわかりやすく表示している。加えて、PM2.5, PM10, SO2, NO2, O3や気温・気圧・湿度・風速の数値も同時に知ることができる。また、AQIをマップ上にプロットした地図も公開されており、こちらは大気汚染の分布状況を概観するのに便利だ。地図上の各AQIをクリックすると、各都市の詳細情報を見ることもできる。
AQIの値と健康への影響は次のように定義されている。(原文はこのページの、'About the Air Quality and Pollution Measurement'にある。)
AQI | Air Pollution Level | Health Implications |
---|---|---|
0 - 50 | 優 | 大気の品質は満足できる状態と考えられ、大気汚染はほとんど、あるいは、まったくリスクがない |
51 -100 | 良 | 大気品質は許容できる範囲。ただし、ごく一部の大気汚染に敏感な人々には健康への影響が起こりうる |
101-150 | 軽微汚染 | 敏感な人々の健康に影響するが、一般の人々には影響しないと考えられる |
151-200 | 軽度汚染 | すべての人の健康に影響が現れ始める。敏感なグループはより深刻な健康影響を受ける |
201-300 | 中度汚染 | 注意報相当。すべての人が影響を受ける恐れ大 |
300+ | 重汚染 | 警報相当。すべての人がより深刻な影響を受ける恐れ大 |
ちなみに今朝のデータで、AQIが「重汚染」(茶色)レベルに達している中国国内の都市には、山東(Shandong)、鄭州(Zhengzhou)、保定(Baoding)、呼和浩特(Hohhot)等がある。「軽度汚染」 (赤色)レベルの街は、中国のいたるところにある。
また、大気汚染はけっして中国だけの問題ではないこともわかってくる。日本では、川崎や市原がAQI150以上の「軽度汚染」と評価され、関東圏を中心にAQI100以上の「軽微汚染」地域が多数ある。一方、九州や中国地方の日本海側のAQIレベルが他と比べて高いのは、中国からの影響と推測される。
一口に大気汚染といっても、粒子のサイズ(PM2.5, PM10など)や種類(NOX、SO2など)が異なり、単一の指標ですべてを評価をするのは短絡的だ。また、取得できるデータには限界があるとは思うが、実際に健康被害がどれくらい起きているかという面もあわせて評価する努力が必要だろう。ただ恐怖を煽るのではなく、正しいリスク・コミュニケーションが行わねばならない、と思う。
その第一歩は、正しいデータを公開することだ。土台がぐらつけば、いかに素晴らしい議論がなされてもその結論には意味がない。大気汚染を非難したり、責任を問う前に、まずは他国に対してデータの公開を求めるべきだし、自国でも正しいデータを公開する行動を起こすことだ。
科学を成り立たせるための根本は、偽りのない、真摯な態度なのだと思う。
※aqicn.orgでは、AQIを確認できるウィジェットを、Windows7/8/phoneやiOS, Android, Simbianなど主要なOS、また、WordPressやBlogger用に無料で配布している。