「スマート・オフィス」「スマート・ホーム」という言葉を、よく耳にするようになった。仕事場や家を「快適に」してくれるさまざまな技術が開発され、競い合っている。アイデアはバラエティに飛んでいるが、根幹の技術は結局センサーやマイコンを組み合わせたもので、技術的には画期的なものではない。誤解がないように補足するが、けっして避難しているのではない。確立された技術をベースにしているから、僕たちは安心して導入できるのだ。でも、センサーやコンピュータを使う限り、気になるのは電気代。快適になっても経済的・環境的にも改善しなければ、ほんとうの「スマート」とは言えないのではないか。
そんな高い望みに答えてくれる「スマートデバイス」をカリフォルニア大学バークレー校の研究者たちが開発した。彼らが発表した「光に反応するカーテン」は明るさに応じて「開閉」する。しかし、その駆動には電気も他のエネルギーも必要ない。カーテンの材料そのものが光を感じて、変形するのだ。
その秘密は、ポリカーボネードとカーボンナノチューブのハイブリッド構造にある。カーボンナノチューブが光を受けると発熱する。その熱がポリカーボネードに伝わり、カーボンナノチューブとの膨張の差で変形するというものだ。言われてみれば簡単な(たとえばバイメタルと同じだ)しかけだが、そのシンプルさが画期的なのだ。一般論として言えば、システムが簡単なら軽くて場所を取らないし、故障も少ない。今はまだカーボンナノチューブは高価だが、将来量産されるようになれば、コストも下がるポテンシャルはある。なにより、電力を使わないからランニングコストもかからない。
パラダイムを変えるような画期的な発明は、よりシンプルなものに大きく飛躍するものだ。複雑で扱いにくいシステムが、シンプルでわかりやすいものに変わった時の爽快感。それが技術の進歩の醍醐味だ。