米国では毎年170万人の患者が、外傷性脳挫傷(Traumatic Brain Injury = TBI)による記憶障がいに苦しんでいる。現状、有効な治療法は存在しないこの障がいの解決に、最先端の脳研究が挑もうとしている。米国防高等研究計画局・DARPA、カリフォルニア大学、ペンシルバニア州立大学による脳機能回復(Restoring Active Memory = RAM)プログラムだ。
RAMプログラムの第一段階は、脳の記憶メカニズムを解明し、そのモデルをコンピュータ上に再現すること。この一環として、てんかん患者に協力してもらい(被験者となるてんかん患者は、すでに脳に電極を埋め込んでいる)、学習や記憶に関与するといわれる「内嗅野ー海馬系」の調査を行う計画だ。
続く第2段階では、得られた脳モデルにもとづいて、記憶機能を回復する埋込み型デバイスを実際に開発する。近年、脳機能を改善するインプラント(埋込み型)技術は急速に進んでいる。たとえば昨年、脳の損傷部位をバイパスするインプラント技術の実験がラットで行われ、脳機能を回復することに成功した。この延長線上として、人間に適用できるインプラントデバイスの開発への期待が高まっている。
RAMは、「BRAINイニシアティブ」と呼ばれる、脳の全神経回路を解明する分野横断的な研究プロジェクトの一環。2013年、オバマ政権はこのプロジェクトに、毎年3億ドルの研究費を10年間にわたって支出する、と発表している。