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錯覚と無意識のインタフェース:大阪大学前田研究室の取り組み


世の中の情報化が急速に進み、僕たちはまるで「データの洪水」の中にいるかのようだ。無限にやってくるデータの中から、自分の目的にとって有用なデータをふるいにかけて、情報として利用するしくみを誰もが求めている。可視化もそのひとつであるが、それ以外にも様々な研究が行われている。中でもユニークな取り組みのひとつが、大阪大学情報科学研究科・前田研究室の、錯覚と無意識を利用したインタフェースの開発だ。

例えば、外科手術を支援するシステムでは、練習者の見る画面の隅に鉗子の動きと連動した縞模様が表示される。練習者の意識は鉗子の先や患者の傷口に集中するが、隅の縞模様も周辺視によって無意識下で認識される。この縞模様がお手本となる鉗子の動きと連動し、練習者に「さりげなく」正しい動きを誘導するのだ。

他にも、爪に振動を与えることで画面に凹凸があるかのように錯覚させるタッチパネルや、点滅するLEDの列を視線が横切ることで2次元の画像をうかびあがる「サッカードディスプレイ」など、錯覚と無意識のインタフェースは、人間の特性を利用して人間に負担をかけずに情報を伝達する技術として期待されている。この技術は、けっして人間を無理に誘導するものではなく、「人間が元々やろうとしている行動の中から、最適な行動を実現することを助けているだけだ」、と前田教授は言う。それが、錯覚と無意識のインタフェースの、もっとも重要なポイントなのだ。

先日ブログに書いた、Bret Victorが提唱する「触覚インタフェース」や、今回の前田教授らの研究など、今、世界中で新しいインタフェースが同時多発的に生まれようとしている。これは裏返せば、現在のヒューマン=コンピュータ・インタラクションはそろそろ限界に近づき、人々は新しいパラダイム変革を求めている、と言うことだろう。
おぼろげに見えてきた道の先にある景色を、一刻も早く予感から実感へ変える必要がある。ゆっくりしてはいられない。

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