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産まれたばかりの赤ちゃんの脳は、ものを触ることで発達する?:新生児の脳の可視化


近年、日本では早産児や低出生体重児の割合が増加している。ダイエットの行き過ぎなども指摘されるが、早産児や低出生体重児に障害が残らないよう、出生後の脳の発達を助けるケアが必要だ。しかし、実は新生児の脳全体の活動は、まだほとんど体系的に計測されていない。新生児の頭の形は個人差が大きく、脳全体の活動を計測する機器がなかったためだ。
この度、京都大学の明和政子教授と同附属病院の柴田医師らは、島津製作所と共同で「新生児用全頭型プローブ」を開発し、新生児の脳の活動を計測した。これは、世界で初めてと言える成果だ。

「新生児用全頭型プローブ」は、近赤外分光法(NIRS)と言う方法で脳の活動を計測する。NIRSは近赤外光の入力プローブ/出力プローブが組となって計測を行う。この時、プローブの距離が近いと比較的浅い場所を、遠いと深い場所を計測することになる。言い換えれば、プローブの位置を正確に保たなければ計測したい場所を図ることができない。この度開発した「新生児用全頭型プローブ」は、新生児の頭に柔軟にフィットするがプローブの間隔は変わらない、と言う相反する要請を満足するような材質と設計が成功の鍵となった。

明和さん、柴田さんらは、新生児の視覚や聴覚、触覚にさまざまな刺激をあたえて、新生児の脳の活動を調べた。視覚や聴覚では、成人と同じように脳の機能がすでに分化していることがわかった。一方、触覚については、大人と違って、新生児の脳の広い範囲が反応していることがわかった。これは、産まれて間もない時期の脳の発達に触覚が大きな影響を与えることを示唆する。

今回の研究成果は世界で初めて、産まれて間もない赤ちゃんの脳全体の活動を可視化したと言うことが大きな成果。今後は刺激と脳の発達の関係を調べ、早産児や低出生体重児の成長を支えるような知見に結びつけて欲しい。柴田先生の言葉を借りれば、「助ける医療から、育てる医療へ」。これが、これからの課題であり、期待なのだ。

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