可視化とは、私たちが気がついていないものを見せてくれる方法だ。その重要な適用分野のひとつが、ジャーナリズムの世界だろう。データ・ジャーナリズムと可視化の組み合わせは、世界に対する認識を大きく変える予感がする。
ジャーナリストであるデビッド・マキャンドレス氏は、2010年のTEDトークの中で、可視化がジャーナリズムをどう変えるかという事例を紹介してくれている。例えば、「メディア・パニック」=メディアが伝えてきた恐怖を可視化したグラフがある。豚インフルエンザ、鳥インフルエンザ、SARS、2000年問題など、メディアが騒ぎ立てた「恐怖」をグラフにしたものだ。この「メディアパニック」のひとつである暴力的なTVゲームは、メディアで話題になるのが、毎年決まった時期、4月と11月であることが、可視化によって見えてくる。(11月はクリスマスシーズンの前の時期だから。一方、4月に多い理由ははっきりしないと言う。) また、やはり11月と4月にピークを持つ別のグラフもある。さらに細かく見ると毎週月曜日にも小さなピークがあり、夏の間はあまり変化がない。実は、これは、Facebookのデータから「恋愛の破局」を可視化したものだ。
よりジャーナリズム的な事例として、軍事費の可視化も紹介されている。例えば、世界の国で軍事費が最も多いのは米国だが、それは米国の国自体の規模が大きいから、と言う側面もある。軍事費を対GDP比で見るほうが、フェアではないか?そうして作られたチャートを見ると、上位に来るのは、ミャンマー、ヨルダン、サウジアラビアなどの国々になる。また、世界でもっとも多くの兵士を持つ国は中国だが、人口あたりの兵士数では韓国が世界一であることがわかる。
このように、データを適切な視点で分析し可視化することで、従来の理解や直感とは異なる現実の姿が、文字通り見えてくる。
私たちは全て「視覚的人間」であり、視覚的な情報を求めている。ただし、情報のデザインとは情報の持つ問題を解決することであり、主観を補強するものではない。逆にデータを可視化する過程で、ものごとが客観的に見えてくる。時に、自分の信念を裏切ることもあるのだ。
このマキャンドレス氏の率直な意見こそ、データ・ジャーナリズムと可視化の最大の目的であり、今後より強く社会から求められることなのだろう。